【悲願のビッグイヤー】全ての逆境を力に、チェルシーのチャンピオンズリーグ11/12。
昨シーズン、チャンピオンズリーグでバルセロナ相手に1-4から逆転勝利を果たしたローマの”オリンピコの奇跡”。
遡れば、チャンピオンズリーグ04/05決勝でミラン相手に0-3から逆転勝利を果たしたリヴァプールの”イスタンブールの奇跡”。
チャンピオンズリーグ史には数多くの”奇跡”が起こっている。
しかし、1試合に限らず大会を通して奇跡を起こしたのが11/12シーズンのチェルシーである。
なんか動画とか見てて思い出したら、この感動を共有したいと思ってしまったので長々語ります。
背景
成績不振と監督解任
ビラス=ボアスは自信のサッカー哲学である攻撃的なパスサッカーをチェルシーに持ち込もうとした。
しかし、チェルシーには守備重視なカウンターサッカーが深く根付いており、サッカースタイルを変えるのは容易ではなかった。
プレミアリーグは5位、チャンピオンズリーグもグループステージ突破を最終節で決めるという厳しい状況であった。
そして、その時は訪れた。
チャンピオンズリーグ決勝ラウンド1回戦 1st legでイタリアの古豪ナポリ相手に1-3で、さらにプレミアリーグで格下のウェストブロムウィッチにも0-1で敗戦した。
これが決定打となり、2012年3月5日、ビラス=ボアスは解任。
"スペシャルワン"ことジョゼ・モウリーニョの築き上げた低いディフェンスラインでスペースを消す守り方は、ビラス=ボアスの目指すハイラインハイプレスとは対極の物だった。
皮肉にもビラス=ボアスは自分の師とも呼べるモウリーニョの遺産に苦しんだ結果となった。
成績不振、監督解任、チームの高齢化・・。
チェルシーの11/12シーズンは絶望的なものになると思われたが・・?
大逆転によるベスト8進出
そんなこんなで暫定監督ロベルト・ディマッテオの下、ナポリとの決勝ラウンド1回戦 2nd legに臨んだチェルシー。
チーム状態に加え、チャンピオンズリーグにおいて1st legで2点ビハインドから逆転勝利した例は3つしかなく(当時)、敗退濃厚な苦しい状況。
それでも、チェルシーは一丸となってベスト8進出を狙う。
28分にディディエ・ドログバのゴールで先制すると、47分にキャンプテンであるジョン・テリーが2点目を決める。55分にはナポリのギョクハン・インレルに1点を返されるものの、65分にフランク・ランパードがPKを決め、なんとか延長戦に持ち込む。
そして105分、ブラニスラフ・イバノビッチが値千金のゴールを挙げ、合計スコア5-4の大逆転勝利でベスト8進出を決めた。
この試合のチェルシーの攻撃は、ドログバを狙ってロングボールを蹴り込みクロスや獲得したセットプレーでのチャンスを狙う"往年のチェルシースタイル"だった。
また、この試合で得点したドログバ(34歳)、テリー(32歳)、ランパード(34歳)は世間からはピークを過ぎた選手と評価され、前監督のビラス=ボアスとの不仲も囁かれた選手たちであった。
チームが苦難を迎えたタイミングで、長年チェルシーを支えてきた選手たちがかつてのスタイルで復活した姿を見せたのだ。
バルセロナに雪辱を果たす
準々決勝でSLベンフィカを2試合合計3-1で下し、準決勝まで駒を進めたチェルシー。
そして準決勝の相手となったのが、スペインの強豪クラブ・FCバルセロナであった。
ペップ・グアルディオラ監督率いるバルセロナはリオネル・メッシ、ダヴィド・ビジャ、アンドレス・イニエスタ等の強力なタレントを有しており世界最強との呼び声も高かった。
さらに、この3年前にあたるチャンピオンズリーグ08/09でも準決勝で対戦した際、チェルシーが試合を支配しながらも疑惑の判定とイニエスタの劇的ゴールによって敗戦を喫した"因縁の相手"でもあった。
1st legはホームのスタンフォードブリッジでの戦い。
堅い守備とショートカウンターからのドログバのゴールにより、なんとか1-0の勝利を掴み取る。
先手を取ったのはチェルシーだったが、守備的な戦い方をしながらもチャンスを多く作られていたこともあり、バルセロナの決勝進出が世論であった。
それでも、チェルシーはアウェーのカンプ・ノウでの2nd legに挑むが、試合展開はチェルシーにとってかなり厳しいものであった。
12分にCBのギャリー・ケーヒルが負傷により交代すると、35分にセルジ・ブスケツのゴールにより先制されてしまう。
さらに、38分にはジョン・テリーが相手選手へのヒザ蹴りによりまさかの一発退場・・。
その5分後にはイニエスタによる2点目を決められて、合計スコア1-2とリードを許してしまう。
試合前に怪我を負っていたダヴィド・ルイスを含め、CB3枚を失っている、前半のうちに10になり、アウェーのバルセロナを相手にしている・・・。
誰もがチェルシーの敗退を確信しただろう。
だが、前半ロスタイムにランパードからのスルーパスを受けたラミレスが見事なループシュートを決め、チェルシーが1点を返す。
アウェイゴールルール(合計スコアが同点の場合、アウェーゴールの多いチームが勝利)により、一気にリードを奪った状況となった。
後半はバルセロナが幾本のシュートを放ち、ペナルティキックも許してしまうが、ことごとくGKのツェフが立ちはだかる。
そして、後半ロスタイム、クリアボールを拾ったフェルナンド・トーレスが前掛かりになっていたバルセロナ側のピッチを独走し、GKもかわしてゴール・・。
最終的には合計スコア3-2でチェルシーが世界中の予想を裏切る決勝進出を果たした。
アウェー決勝と悲願のビッグイヤー
決勝の相手はドイツ王者のバイエルン・ミュンヘン。
決勝は中立地での1発勝負で開催地は開幕の遥か前に決められたスタジアムになるものであるが、なんとこの年の決勝の舞台であるアリアンツ・アレーナはバイエルンのホームスタジアムでった。
不運なことに、バイエルンサポーターが固めるアウェーでの決勝となってしまった。
さらに、累積警告等によりキャンプテンのジョン・テリーや中心選手のラミレス・イバノビッチ・メイレレスを欠くことに。
それでも、最早チェルシーにとっては関係無いことであった。
試合は想定通り、攻めるバイエルンと守りチェルシーの構図。
多くの決定機を作られていてもゴールを許されなかったチェルシーだったが、83分にトーマス・ミュラーの先制点を許してしまう。
ついにチェルシーも終わりか・・と誰もが思ったが、後半終了間際の88分、コーナーキックからドログバが値千金の同点ゴール。
試合を振り出しに戻し、そのまま延長戦、さらにはPK戦に勝負がもつれ込む。
チェルシーは孤軍奮闘していたフアン・マタが最初のPKを外してしまうも、バイエルンが4人目のイビチャ・オリッチ、5人目のバスティアン・シュバインシュタイガーが失敗し、最後にPKを蹴るのが・・ドログバ。
今シーズン限りでチェルシー退団を表明していたドログバだった。
ちなみに、チェルシーは07/08シーズンもマンチェスター・ユナイテッド相手に決勝を戦っており、同じようにPK戦を戦い5人目が成功すれば優勝、という場面にまで漕ぎつけていた。
ただし、この時は5人目のキッカー・ジョン・テリーがボールを蹴る瞬間に軸足を滑らせて失敗・・テリーをはじめ、多くのチェルシーファンが涙を流す結果となった。
ただ、キャプテンとは言えキック精度が高いとは言えないCBのテリーが5人目のキッカーだったのは疑問が残っている。
本来は、この試合で退場していたドログバが5人目のキッカーだったと噂されている。
そして、チャンピオンズリーグ11/12の決勝では正真正銘ドログバが5人目のキッカーとなったのだ。
ドログバは冷静に左へボールを蹴り込んだ。
これが決まり、チェルシーは悲願であったチャンピオンズリーグ制覇、ビッグイヤーを獲得した。
総括
・逆境を覆え続けたチェルシー
決勝ラウンド1回戦1st legで1-3の敗戦、準決勝でCB不足の上に数的不利で世界最強のバルセロナと対峙、決勝では多くの選手を欠きアウェーの地で終了間際に失点・・。
何度も敗退を覚悟した場面があったが、その逆境をことごとく乗り越えたチェルシー。
チームが一致団結し、世間の批判を真っ向から否定し続ける姿はファンに感動を与えてくれた。
・間違いなく主人公であったディディエ・ドログバ
世間からはピークを過ぎた選手と評され、チェルシーのためにも退団を表明したいたドログバ。それでも、前線で体を張り、要所でチームを救うゴールを決めたドログバはこの大会の主人公だったと言える。決勝での同点ゴールはヘディングシュートとは思えないほど強烈なシュートであり、ドログバにしかできないゴールだった。
また、フォワードであるドログバもチームのために献身的にディフェンスを行ったが、不慣れ故に準決勝2nd legと決勝で2度もPKを与えるファールを犯してしまった。
しかし、2度ともPKは失敗に終わり、この辺りの強運(?)もドログバが主人公だった故に持ち合わせていたと考えている。
・強敵からゴールを守り続けたペトル・ツェフ
準決勝・決勝とほとんどの時間がディフェンスに追われることとなったチェルシーにとってGKのツェフの活躍は欠かせなかった。
特筆すべきはPKでの勝負強さ。準決勝2nd leg後半に1本、決勝延長戦に1本、決勝PK戦で5本、計7本のPKを受けたが、ゴールを許したのは半分以下の3本のみ。2本はPKストップし、2本は枠内へ蹴らせなかった。ちなみに、7本全てキックと同じ方向に飛んでいる。
マルチリンガルで心理学にも精通する頭脳派のツェフなので、事前のPK分析による部分も大きいかもしれないが、大舞台で結果を残せるのは流石である。
・チームをまとめあげた暫定監督、ロベルト・ディマッテオ
ビラス=ボアスの解任により、突如、アシスタントコーチから暫定監督に昇格したディマッテオ。
チームに戦術を落とし込む時間さえ無かったディマッテオは、選手の持ち味を最大限に引き出し、かつ強敵とも戦える、カウンター主体のサッカースタイルを使用した。
これにより、燻っていたチェルシーは蘇り、奇跡のチャンピオンズリーグ優勝を果たした。
彼自身、チェルシーのプレイヤーであったことや、選手と共に心から喜ぶ姿も、選手の心を惹きつけたのかもしれない。
そんなディマッテオだが、大当たりした采配もあった。バルセロナにはメッシ、バイエルンにはロッベンと強力なドリブラーが君臨していたため、ディマッテオは本来はセンターハーフのラミレスやCL出場経験のなかったサイドバックのライアン・バートランドを左ウィングとして先発させ、強敵相手に効果的にディフェンスを行った。
時間的に多くの采配を振るうことはできなかったが、モチベーターとしてのディマッテオは実に優秀だったであろう。
さいごに。
今回はチェルシーファン故にこのチャンピオンズリーグ11/12の話をしましたが、
多くのサッカークラブ、ないしは多くのスポーツに歴史がありドラマがあると思ってます。
スポーツは多くの夢と感動を与えてくれる、素晴らしい興行ですね。
・・・うん、ホントに。
・・あの・・みんなもっとスポーツ楽しもうぜ!
おわり。